体を縦に貫く痛み。
 それは爆雷のような衝撃だった。
 遅れてくる理解と認識。
 ああやはり、この人は強い。
 澄み渡る空に佇む白き影。
 現役にして伝説と謳われる、時空管理局のエースオブエース。
 私たちの隊長、高町なのは一等空尉。
 スバル・ナカジマと私、ティアナ・ランスターがなぜ今になって彼女と戦っているのか。
 それはつい二時間ほど前のこと。


〜〜Color's〜〜


 機動六課解散まで一週間を切った日の麗らかな午後。
 私は久方ぶりの休暇を地球の友人達から送られてきた面白い映画をみて過ごしていた。
 そんなときである。
 二人は私の部屋にやってきたのは。

「スバルにティアナ。どうしたの?今日は二人も休暇だよね?」
 二人を部屋に招き入れ、お茶の準備をする。
 心なしか二人とも落ち着きが無い。なにか悩みでもあるのかしら?
「何か悩みでもあるのかな?私でよかったら相談に乗るよ?」
 二人を座らせたテーブルの対面に腰掛ける。
 それからしばらくの空白があった。でも今日は休暇だ。急ぐわけでもないので、適当な世間話を語りかけ二人の緊張を解きほぐす事に勤めた。
 やがてティアナが意を決したように顔を上げる。
 垂れた前髪の隙間から力強い光が覗いていた。
「なのはさん。……私が模擬戦で勝手な事をしたこと、覚えてますよね」
「……ん。まあね」
 忘れようはずも無い。
 自分の初めてできた部下に初めて手を上げた日のことだ。
 あの苦さは、どうにも忘れられるものではない。
「本当に、ごめんなさい!」
「ごめんなさい!」
 ティアナに続きスバルも頭を下げる。
「ちょ!ちょっと二人とも。いいよもうあの日のことは。すんだことだし……それに」
 私にだってこの二人に謝らなければならないことがある。
「……ティアナが苦しんでいることに気がついてあげられなかったのは、教官としての私のミスだから。あれは二人だけが悪いってワケじゃないよ」
 そう。あの時もっと事前にティアナに気を配っていれば気づけたかもしれない。
 もっと信頼を厚くしていれば相談に来てくれたかもしれない。
 自身の至らなさを後悔しない日は無かった。
 その事を告げて謝ると、二人は目を丸くしたが、理解の早いティアナはくすくすと笑い出した。
「つまりお互いに未熟だったってことですか」
「ふふふ。そういうこと。だからそんな今になってわざわざ謝りにくることなんてないんだよ?」
「いえ………今日来たのは実は、その模擬戦のことでなのはさんにお願いがあってきたんです」
「私に、お願い?」
 そちらのほうが本題だという。しかしあの模擬戦の話でこれ以上の話題がなにかあるだろうか。
 二人の考えを計りかねていると、ティアナが言った。
「あの日うやむやになった決着を、今日つけて欲しいんです!」
 それは、一年越しの挑戦状だった。



「スバル。私、もう一度なのはさんに挑戦する」
 就寝前、二段ベッドの下から聞こえてきた突然の提案にスバルは飛び起きた。
 その際に天井に見事なヘッドバットを入れてしまい悶絶した。
「っっううう!……とつぜんどうしたのティア?」
 身を乗り出し、顔だけ降ろして下段を覗く。ティアナはクロスミラージュを手で遊ばせている。
 やがてその視線が、部屋の隅に詰れたダンボールに移った。
 それはこの部屋を去るときに運び出す二人の荷物。
「六課が解散すれば、私達は別々の道を行く事になるわ」
 ああ、そうか。その一言でスバルもティアナの言わんとすることを察する。
 二人が志した道は、それぞれが自分の足で歩んでいく交わらぬ道だ。
 新しい生活、新しい環境、そして新しい相棒。
 この部屋を出れば、すべてがめまぐるしく変わる事だろう。
 そしていつしかその慌しい時の流れに思い出は色あせていく。
 ことなのはにすれば、相手は管理局きっての魔導師だ。恐らく、会う事すらままならなくなる。
 それは仕方のないことだ。それを理解できないほど二人が子供なわけではない。だが……
「そうなる前に、私はもう一度、あの時つかなかった決着をつけたい」
「ティア……でも、私達じゃたぶん……」
 勝てない。続く言葉は口にしなくとも伝わった。
 まあそうだろう。力量の差は歴然としている。そんなことはティアナとて理解していた。
 それでもどうしても戦いたい。
 なぜだろう。殆ど絶望的な戦いに好き好んで挑みたがる。自分はそんな人間だったのだろうか。
 ここに来る前、そんなことを考えた事が一度としてあっただろうか。
 短い自問自答のすえに、ティアナは微笑んだ。
「……ああ。本当は結果なんてどうでもいいのかもしれないわ」
「え?」
「勝ち負けなんてどうだっていい。私は……最後に証を立てたいんだ。アンタとこの機動六課で一年間がんばり続けてきた証を」
「……ティア」
 相変わらず子犬みたいに怯えるのは、このパートナーの可愛いところだが、もう少し好戦的であって欲しいものだ。こういうときは上手い餌を与えてたきつけるに限る。
「アンタも試してみたいでしょう。自分の力が、この人相手に何処まで通じるのか」
 それがスイッチだ。スバルの目つきが変わり、隠し切れない闘志を宿す。
「そして伝えたい。私達がどれだけ強くなったかを、あの人に。他でもない、スバル、あんたと一緒に」
 その提案を断る理由が何処にあるだろうか。
「うん。やろうティア!私達の全部をなのはさんにぶつけてみよう!」



「おいおい正気かよ」
 場所を手配したシャーリーに事情を聞いたスターズの副隊長は重いため息をついた。
 一際高いビルの眼下には距離を開いて対峙するなのはと新人コンビの姿。
 それをみて隣のシャーリーは笑う。
「なんというか、”らしい”ですね?」
「まったくだ。あいつら間違いなくなのはの教え子だよ」
 髪をかきながら呆れた口調で言い放つ。
 まったくドイツもコイツも血気盛んというか、負けず嫌いというか。
「収まりがつかないんだろ。宙ぶらりんのまんまだと、さ」
 ヴィータはもう一度やれやれとため息をついた。

「さて二人とも。条件は前と一緒……じゃあ面白くないよね」
 くすくすと白いバリアジャケットに袖を通したなのはが笑う。何を言い出すかはわかっていた。
「一発あてたら勝ちなんてけち臭いことは言いっこなし!私をノックアウトしたら二人の勝ち。それでいいね?」
「「はいっ!」」
 この二人を相手にリミッターをつけたまま無傷で凌ぎきれるとおもうほど、自惚れてはいない。
 そして二人も、そんな曖昧な決着を望んでいたわけじゃない。
「コレが最後の機会だから。ボロボロになって倒れちゃうまでやらせてくださいっ!」
 スバルが高らかに宣言して構える。
「私達が此処に来て、どれくらい強くなれたか。今日は限界まで見てもらいますっ!」
 ティアナがバックステップして右斜め後ろの位置に陣取る。
 二人が戦闘態勢に入った。
「……わかった。じゃあ、はじめるよっ!」
 なのはの宣言にあわせ、シャーリーがブザーを鳴らした。


 瞬間。先手を取りに走ったのはスバルだ。なのはまでの距離を一気に詰める。
「スバルの突破力にモノを言わせた作戦、ティアナは援護に徹するつもりか」
 ヴィータが冷静に二人の作戦を分析する。シングルエース。乱戦では横っ腹ががら空きになって使いようも無い陣形だが、相手は一人。ならばこれ以上に二人の持ち味を引き出せるシフトもない。
 しかしそれに意表を付かれるなのはではない。そもそもこの戦い方を教えたのは彼女本人なのだから。
 バリアを展開しスバルの拳を受ける。それと同時にアクセルシューターを六発。
 四発をスバルへの攻撃に、二発をティアナへのけん制に。それぞれ異なる軌道を描く光弾をけしかける。そのどれもがとんでもないスピードと精度だ。
「初っ端から飛ばしますね。高町教導官」
 苦笑いのシャーリーにヴィータが首を振る。
「まだまだあんなモンじゃないさ。とりあえずは”おさらい”ってことだな」
「おさらいですか?」
 派手な爆発音と砂煙。
 そこからシールドごと殴り飛ばされたなのははが飛び出し、そのまま空へ逃れる。
 そして同じように、今度は10発の光弾を作り出し、ウィングロードで迫るスバルをつるべ打ちにする。しかし、
「この訓練は……泥ねずみになるまでやりましたよっ!」
 桃色の光を打ち消す橙の焔。ランスターの弾丸がそれらを残らず打ち落とし、スバルの航路を開く。
「りやぁああぁぁぁーーーー!」
「っ!さっすが!」
 拳から蹴り、そして拳に繋がるコンビネーションをすべてバリアで防ぐも、その衝撃を殺しきれずになのはの体が徐々に押し込まれていく。
「なるほど、確かにおさらいですね」
 シャーリーも気がつく。アレはなのは自身がティアナに行っていたセンターガードの訓練、その実戦版だ。
 敵の弾種弾道をすばやく見極め、的確な援護射撃でフロントアタッカーを支援する。まさに訓練どおりの動き。
「やるじゃんかティアナ」
 さてもうおさらいはいいんじゃないか。
 ヴィータが空でスバルの攻撃を受け続けて防戦しているなのはを見上げる。
 形勢はなのはが不利だ。圧倒的なスバルの手数に防御で手が一杯になっている。
 そしてスバルの突破力なら、その防御を打ち壊すのもまた時間の問題。
 いつまでもその土俵で戦ってたら本当に負けちまうぜなのは。こいつ等はそれほどに強くなった。
 その声が聞こえているのか、攻撃を受けながらなのはの唇が綻んだ。
 そう。いつまでもここに居たら本当に倒される。
 一年前まで自分に触れることすら適わなかった彼女らが、適性に合わせた理想的な陣形と気の遠くなる反復訓練で培った技術を持って、自分を追い詰めている。それを二人が伝えようとしてくれている。これ以上の別れの贈り物が何処にあろうか。
「そこだぁああぁ!」
 スバルの拳が唸り、バリアを突き破る。
 バリアで多少威力を殺されたとはいえ、あたれば間違いなく吹き飛ぶその拳を---------なのはは掌で受け止めた。
「ぇ!?」
 否、それはただ受け止めたのではなかった。
 着弾と同時の爆発。すさまじい轟音と発光がスバルの耳と目を焼く。
 スバルは爆発に吹き飛ばされ体勢を崩した。そこにすぐさま横薙ぎのレイジングハートによる一撃が決まる。
 再びの爆発にスバルの体がティアナの隣まで一気に吹き飛んだ。
「こぶし大のバリアで攻撃を受け止め、追撃を許さぬ速さでそのままバリアバースト。体勢を大きく崩した所に近距離技のフラッシュインパクトか。模擬戦で使うようなコンビネーションじゃねえな」
「スバル!?」
「大丈夫、平気!」
 パートナーの頑丈さに感心する。しかしスバルの接近戦をここまでたやすくいなされるとは、ますますそこの知れない人だ。接近戦はそこまで得意ではないだろうに。
 しかしこのままでは不味い。空に飛ばれるとどうしても不利になる。
 思考すること刹那。ティアナはスバルに指示を出し、スバルは再びの突撃を敢行する。
 考えたところで行き着く場所は同じ。
 そう、この戦いに二人が勝つ為の絶対条件は、なのはをスバルの射程に捕らえることにある。
 総合能力ならばリミッターをつけた状態ですらなのはに分があるが、こと突撃力と連打の回転に関してはスバルのほうが圧倒的に上。ならば、そのアドバンテージに正気を掴む他は無い!
 そしてティアナは突撃に合わせて後ろに大きく跳躍。高所はガンナーの基本だ。一番高い廃ビルの屋上を陣取り、スバルを援護する。

----------つもりだった。

「いくよ。二人とも……」
「「!?」」
 なのはの声色が変わる。
 それはまるで一陣の風のように空気を揺らし、鋭利な刃物のように心臓を戦慄かせた。
 桁外れの闘気。常識破りのプレッシャー。
 時間ごと凍らされたように体が動かない。
「なのはがギアを一つ上げた。ここからだぞ二人とも……」
 なのはが自分の四方に四つのアクセルシューターを展開、斉射する。危機感に押し動かされようやく体が反応した。
「スバル!迎え撃って!」
「援護任せた!」
 スバルに不規則な軌道で迫るアクセルシューターを動きにあわせた弾丸で打ち落とす。
 それはもう何百回、何千回、気の遠くなるほど繰り返したガンナーの基本動作だ。淀みはない。あろうはずもない。
 誰に教育されたと思っている!

「うわぁ凄い凄い!ティアナちゃん、物陰や背後から来る弾丸まで打ち落としてる!」
 ティアナの援護は惚れ惚れするほどに完璧だった。
 物陰から、廃ビルから、ステルス迷彩を施した空色のシューターまでも、一発の撃ち漏らしもなく処理している。
 二人の予想外の奮起にシャーリーが賛辞を送る。ヴィータも同じ思いだ。
 ランスターの弾丸。確かそういっていたことがあったか。
「遺伝。だろうな、あれは」
「遺伝?」
「あいつの兄もかなり優秀なガンナーだったって話だ」
 それはティアナを盲目にさせていた時期もあったが……彼女は自らの才能を曲げることなく開花させたのだ。
 イーグルアイ。視野を広く遠く持つ一級のガンナーの証。
「才能が無いなんていって腐ってたけど、やれば出来るじゃネーか」
 そう、それがなのはにすら無いお前の素質だよティアナ。
 
「でぇええやぁあ!」
 超一級品の援護を受け、あっという間にスバルが懐に入り込んだ。一撃バリア越しに打ち込んで大きく後退させる。
 と、次の瞬間、レイジングハートの矛先が煌いた。
 刹那に特攻を諦め体をそらす。スバルの皮一枚を焼いて、なのはの十八番ディバインバスターが通り過ぎる。と思った瞬間だ。
「迂闊だよ!後ろだからって油断するのは!」
 力任せに火線を曲げ、光の集束砲が後衛のティアナに襲い掛かる。
 一度指向性を持たせ撃った大出力の砲撃を曲げる。そんなことが出来る魔導師が何人いようか。少なくとも二人には不可能だ。
 しかし、
「迂闊なのは、--------そっちですよ!」
 合図でフリーになったスバルが再び襲い掛かり、障壁を貫く一撃を入れる。防御に回ったせいで火線のそれ以上の変化を加える事が出来ない。
 一年間傍にいて、この人ならそれを行えるという確信があった。
 だからこそ、二人はその瞬間こそを待ったのだ。
 ディバインバスターはそれなりの大技。アクセルシューターなどとは発動後の隙の桁が違う。
 ティアナは皮一枚くれてやるほどのギリギリ最低限の移動動作でそれを交わし、内に猛るカートリッジのエネルギーをルーレットのように回転させたクロスミラージュを交差法で突きつける。
「アレはっ!」
 ヴィータが気づく。
 内に螺旋を描き猛る力。
 そうだよ。この技はあの時なのはさんが見せてくれた技。
 幾つもの力を集束して大きな威力を生み出す、非力な私にあつらえたようなあの技。
 覚えている。そして、今の私なら、それができる!
「クロスファイアシュート!」
 反動は魂を震わすほどに鮮烈だった。
 抉りこむような弾丸の軌道はなのはに直撃し、大きな爆発を起こす。
「スバル!」
「オーケー!」
 直撃を受けなのはの体が揺らぐ、切り崩すのには絶好のチャンス!
 長期戦はキャリアの短いこちらが不利だ。ここで決める!
「「たぁぁぁああぁぁぁ-------っ!」」
 スバルのリボルバーシュートとティアナのシュートバレット。
 双方に持ちうる武器の中で最高速度の連射性を誇る技をありったけ打ち込む。
 轟音に次ぐ轟音。空は大きな黒煙の塊が出来ていた。



 すさまじい爆発音の後には黒煙と静寂が残った。
 シャーリーは信じられないという表情で空を汚す煙を見つめている。
「……ほ、ほんとに、勝っちゃった?」
 ティアナが集束型のクロスファイアシュートをつかったのはヴィータにとっても完全に予想の外だった。
 そして恐らく……なのはにとっても。
「やられたな。バリアも間にあわないままもらっちまった」
「じゃあ、ホントに!?」
「普通ならノックアウトだろう……」
 そう普通なら。
「でも、あいつらの目の前にいるのは、エースオブエースだ」
「……!これはっ」
 シャーリーが見つめる先。それは三人分のバイタルゲージ。

「やった……やったよティア!」
「ちょっと、信じられないけど……私たち本当に」
 信じられないといった表情で黒煙を見上げる。
 その瞬間だった。
 黒煙を吹き飛ばし、光の槍がすさまじい速度で伸びてきて、スバルを打ち抜く。
「うわぁあああああ」
「スバ……なっ!」
 叫ぶ暇すらなかった。
 ディバインバスターの瞬間2連射。
 常識では考えられない超高速詠唱の二連撃。
 二人はそのまま地面に叩き落された。
 急いで立ち上がろうとするが、瞬間、脳髄から足の先までを雷が通り抜けた。
 見上げる空には白い影。
 まるでそれは雲の様に果てしなく遠い場所に居るかのよう。
 あれほどの集中砲火のなか。その純白のバリアジャケットには傷一つついていなかった。
 桁が違う。次元が違う。住む世界が、違う。
 これが、エースオブエースの本当の力なのか。
 遥か高みにいる彼女の視線が二人を捕らえる。ゆっくりと地面に降り立ち、二人の前に立った。
 そして今まで見た中で、一番やさしい笑顔を浮かべた。
「本当に凄いよ。二人とも……ホントに、強くなったね……」
「あ………」
「なのは、さん」
 胸の中にとても温かい何かが広がる。
 その言葉を、どれほど待ち望んだ事だろう。
 一番尊敬するその人に、こうして認めてもらうこと。
 それはこれ以上ないほどの喜びだった。
 そしてそれは、なのはにとっても。
「なんて、言葉にすればいいのか、わからないや。でもね……二人が強くなって、それを私にこうして伝えてくれて……」
 言葉がうまくつむげなかった。
 万事うまくいったわけじゃない。すべてを教えきれたわけでもない。
 わずか一年間の教導。駆け足で無茶をさせたこと、言葉が足りなかった事、配慮が足りなかった事。
 思い返せば後悔はいつもそこにあった。
 あそこでアレを教えていれば。あの時アレを叩き込んでいれば。
 とてもではないが、自慢のできる一年間とはいえなかった。
 それでも、それでもこのふたりはここにいる。ここにいて、この一年間で得たものをすべて見せてくれている。
 教官として、これ以上の喜びがどこにある?
「スバル・ナカジマ」
「はいっ」
「ティアナ・ランスター」
「はいっ」
 愛しむ様に二人の名を呼ぶ。
「私は、あなた達を教えられて、本当によかった」
 二人とも、最高の生徒だった。

 告げると、なのはは後ろに大きく跳んで距離をとった。
「これは、私からの贈り物……」
「な!」
 スバルがその力の流動を感じ取り、腰を低くする。
「これは……っ」
 すこし遅れてティアナもその異変に気づいた。
「空気が……震えてる……」
 その震源地は、もはや力の流れを探るまでも無い。それほどに露骨で、挑発的で、圧倒的だった。
「あーあ。だめだ」
「え、なにが駄目なんですか?」
 今までで一番深いため息をついたヴィータに尋ねる。
「スイッチはいっちまった。一切の加減をする気がねえって顔だ。アレは」

 これから上に行くために、まだまだ強くなるために、私が二人に残せる最後の贈り物。
「-------------二人に、エースの戦いを見せてあげる」



 一瞬目の前のことが現実とわからなくなるような、そんな馬鹿馬鹿しい光景。
 刹那に展開された桃色の蛍火は総数1000をゆうに凌ぐ大弾幕。
「構えなさい。じゃないと、一瞬で終わるよ」
「----------っ!?」
「くっ、!」
 ティアナが先んじて、なのはがしたように死角をつかって弾丸をけしかける。
 しかし、それらはすべて打ち落とされる。
 横から、後ろから、そして真上から。どれもが相殺された。だが、
 切り札は------------こっちだっ!
 なのはが立つ地面が砕け、真下から撃ちあがる橙の焔。
 着弾して吹き上がる爆煙。
「-------みえてるよ、ティアナ」
「う、うそっ!?」
 だがそれすらもなのはには届かなかった。
「イーグルアイ。さっきヴィータさんが言った武器をなのはさんも持ってるんですね!」
「いや。なのはの持ってるのは、そんな上品なものじゃねえ」
「でも弾丸をすべて……」
「イーグルアイは視野を広く遠く持つガンナーの理想系。でもそれはその動体視力についていける反射神経があってこその武器」
 そう、見えるだけではこの力は成立しない。
 ティアナはそれを行う柔軟な筋肉とバネを産まれ持っている。
「でもなのはにはそれはねぇ。地球の、日本人ってのはあの星の中ですら小柄で、身体能力に恵まれていない人種だ。例え見れたとしても、それについていけるだけのスペックがなのはの体には備わっていない」
 それは悔やんでも望んでも埋めようの無い産まれの差。もって産まれた素質の差だ。
「じゃあどうしてティアナちゃんと同じような事が出来るんですか?」
「……それはあいつが、それに変わるものを持っているからだ」
 言ってヴィータは微笑んだ。
 まるでそれは子供を見守る親のような温かくやさしい眼差し。
「言葉どおり、出し惜しみなしか……」
 リミッターの負荷にJ.S事件の後遺症すら抜け切ってないってのに……お前は生徒想いだな……。

「アクセルシューター。ファランクスシフト……いくよっ!」
 まさしくそれは雨霰といった様相だった。
 間隙無く降り続く指向性を持つ弾丸の嵐。それもどれもがまったく別の軌跡を描き、二人に迫る。相殺はとても出来るものではない!それはティアナとスバル、二人を足したその限界を遥かに上回る魔力量だ。
「スバル散開!今は逃げるわよっ」
「うわぁ!う、うんっ!」
 なのはとて撃ちっぱなしだと力が落ちる。
 そちらが弾幕を張るなら、意地でも凌いで生じた間隙を叩くのみっ!
 しかしその狙いが明らかな誤算であることをすぐに思い知らされる。
「うわぁああ!」
「きゃぁああああ!」
 なのはの弾丸はティアナたちの逃げようとする方向、避けようとする角度に容赦なく飛んでくる。
 果てはティアナが作り出した幻術までもを見破って正確に狙い打ってくるのだ。
 動きが読まれている。それも一手二手先どころの話ではない!
「すごい……。幻惑に光学迷彩、スバルのほうも廃ビルの壁を使ってかなりの回避距離を稼いでるはずなのに……」
「あれがなのはのイーグルアイに変わる武器……」
 経験から、予感から、表情から、行動から、それらすべてから現れる情報を解析し、反射神経に囚われない圧倒的な先読みを敢行する力。
「洞察力だ」
 これにかかると、攻撃がかすめる度に冷静さを削る。
 そしてそれは判断力を鈍らせ、普通ではありえないほどのミスを誘発させる。
 相手の心情思考をすべて把握し、想像通りに戦いを運ぶゲームメイク。
 戦うたびに培われてきたなのはの叡智。完全無比の洞察力のなせる技だ。
「つぅうう!駄目だ。このままじゃっ!」
 ティアナに焦りの色がにじむ。しかし立ち止まることすら出来ず、先ほどから逃げ回る事で精一杯だ。
 反撃などできようハズもない。
 だが……
「がぁ!ひ、うわぁああああ」
「スバル!」
 間隙無く続く爆発とスバルの悲鳴。
 スバルは回避が一切できないのか、滅多打ちだ。
「スバルちゃん、動きだけならティアナちゃんより大きく動いてるのにどうしてっ!?」
「なのはの弾丸が見えてないんだ」
「でもスバルちゃんの動体視力と反射神経はっ」
「ティアナをずっと凌駕してるな。でも目のよさの種類が違う」
「種類……?」
「あたしらみたいな接近して戦うタイプは確かに動体視力と反射神経はいいが、視野が極端に狭く短い。ああ広角で攻められると眼が追いつかない」
 言っているうちにまた纏めてもらう。もうスバルはふらふらになっていた。
 しかしなのははそれでも容赦しない。スバルが避けれないと悟るや、スバルに弾幕を集める。自身の周りに数百の光弾を作り出して追撃を狙う。
 たまらずティアナが膝をつくスバルの前に躍り出て庇うように援護に回った。
 ありったけの弾丸と魔力を使って凌ぎきる。スバルが立て直すまでの数秒なら何とか持ってみせる!
---------だが。それこそが誘発された致命的なミスだった。
 冷静なティアナならまずあり得ないだろう立ち居地。
 瞬間、それを狙いすましていたように、周りに浮かぶ蛍火を束ね、際限なく集束するレイジングハート。
「あれはっ!」
「うわぁ。マジかよっ」
 見届け役の二人の顔が引き攣る。
 ティアナの脳髄に電流が流れ、今の自分達の配置を空から眺めたようなイメージが浮かぶ。
----------射線を、重ねられた。
 いかになのはとてリミッターをつけられた状態で1000もの弾道を操る事は出来ない。実際使用できるのは半数にも満たない。
 ゆえにアクセルシュータの展開は、視覚的なプレッシャーを与えることでティアナのエラーを誘い出すフェイク。脅しの武力。
 狙いは、一網打尽の

「スターライト・ブレイカァァアアアァ----------------------------ッ!!!」

 それに気づいたのと、世界が光に包まれたのはほぼ同時だった。



 灰色の廃墟を抉るように土色の道が続いている。
 なのはのスターライトブレイカーはさながらトルネードのようにあらゆるものを吹き飛ばした。
「うっわーこれはやりすぎじゃねーのか?」
「ヴィータちゃん」
「愛の鞭もここまで来ると毒だろうよ。どうすんだ、また落ち込んじまったら」
 やれやれと呆れた風なヴィータに返す言葉は遅れた。
 息が荒い。ぽたぽたとアスファルトを濡らす汗の量が尋常ではなかった。
「リミッターがかかってるのに無茶しすぎだ。このバカ」
 激しい息切れに眩暈。制限を自ら限界まで突破しようとしたリバウンドだ。
「えへへ……はぁはぁ、しょうが、ないじゃない。あの二人が、こんなに素敵な贈り物をくれたのに……わ、わたしだけ手なんて、抜けないよ……」
 まったく。この一撃もあの二人にとってはいい思い出になるんだろうよ。そう苦笑した。
「シャーリー。二人のバイタルは?」
「えっと、ティアナちゃんは、もう駄目だとおもいます。でもスバルちゃんにはまだすこし余力がありますね」
 言ってシャーリーの顔が曇る。なのは自身のバイタルは、そのスバル以下まで急激に落ち込んでいた。
 リミッターを掛けられたままS+の全開状態と同じ戦い方をすれば、その消耗は筆舌に尽くしがたい。
 エベレストの頂上でフルマラソンをするようなものだ。
「はぁ、はぁ……だろう、ね。ギリギリのところで……ティアナがスバルを庇ったから」
「……なるほどなぁ。つまり、まだやる気、なわけだ」
 なのはは頷く。
「だって。私の教え子なんだもん」
「……恐ろしく説得力のある言葉ですね」
「まったくだ。そろいも揃って負けず嫌いというか、引き際をしらないというか……」
 そしてしばらくのち予想通り、瓦礫の道からスバルだけが歩いて帰ってきた。



「ティア!大丈夫っ!?」
「……だいじょーぶ………なわけないでしょ……」
 げほっと咳き込むティアナの体に余力は無かった。
 魔力はまだ残っている。しかし体力を根こそぎ持っていかれた。もう立つ事すら危うい。
 あの刹那、ティアナは身を挺してスバルの盾となった。
「ごめん……わたしが、トロかったせいで……」
「あ、あやまんないでよ。そんなの……アンタのせいじゃないわ……」
 敵があまりに強すぎただけの事だ。
 なんとか状態を起こし、ティアナが息を整える。
「スバル………あんた、まだやれるわね?」
「……うん。大丈夫。ティアが庇ってくれたから」
 ティアナは何もスバル仲間として庇ったわけじゃない。ティアナが身を挺してまで守ったのは最後の光明。
 勝利へのたった一本の蜘蛛の糸だ。
「なんでかなぁ。最初は、さ。勝ち負けなんてどうだっていいって思ってた。ただ全力を出して……なのはさんに強くなりましたって報告できれば、満足だと思ってたのに」
 ティアナの言わんとすること。それはスバルにも当然わかった。
「だね……。そして、あれほど圧倒的な力の差を見せ付けられて……こうやってボロボロにされて……。あはは。おかしいねティア」
「ふふふ。そうね。何でかしら」
 なのはさんに喜んでもらえて、認めてもらえて、そして馬鹿げているほどの力の差をこうして見せ付けられたというのに。
 目的は果たせたはずなのに。
「ティア……。私、勝ちたいよ」
「ええ。勝ちたいわ」
 その思いだけが、際限なく強くなる。
 そうだ。まだやりのこしがある。できることもある。
 なら終われない。最後の最後まで挑み続けると決めたんだから!
 そこに思い至ったときにふと感じた。そうか、きっとなのはさんはいつもそう思っていたのかもしれないな。と。
 あの人は模擬戦だろうと何だろうと、負けてもいいなんて考えた事はないんだ。
 彼女にとって、≪空≫は譲れないものだから。
 だからこそ、あれほどに強くなれたのかな……。
 ……でも、思いの強さなら負けていない。負けられない。
「スバル。……アタシじゃ全開でやってもなのはさんのシールドを突破できない」
 それは先ほどのクロスファイアシュートの直撃で思い知った。
 ティアナの全力よりも、なのはが無意識に放出している魔力のほうが強いのだ。
「逆転の切り札は、アンタよスバル」
 スバルはマッハキャリバーとリボルバーナックルの軽い点検をした。
 そして拳を胸の前でガツンと合わせる。
「オッケー。いつでもいけるよ」
「でもあんた。やっぱりなのはさんの弾幕が見えてないわよね」
「……うん。一発一発は見えるんだけど……ああ数が多いと」
「なら、ちょっと座って」
 もう足が言う事を聞かないので、スバルに体勢を下げさせる。
「こう?-------ひゃぁあ!?」
 突然ティアナがスバルの顔面を掴んだ。
 瞬間に魔力光が弾ける。
「アタシを信じなさい。アタシがアンタを強くする」
「ふぇ?ええ?」
 何の事だかわからないと困惑するスバルをみてクスクス笑う。
 なに今にわかる。それが最後の切り札だ。



「ティアナはリタイア?」
 一人戻ってきたスバルに向けて、再び弾幕をセットするなのは。
 それはさきほどとまったく変わらない数。
 なのはもまた、すべてを出し尽くすつもりなのだ。
「ティアはまだ戦う気です」
「ふふ。そうね。今日は倒れるまでやるんだものね」
「はいっ!」
「私も出し惜しみはしない。これで、決めるよっ!」
 合図と共に一斉に数百の弾丸がスバルを襲う、なんとか交わそうとするものの、すぐに追いつかれスバルの体が黒煙の向こうに消える。
 なのはの防御力に対抗するためにスバルを残したのは勝つための一手だが、なのはの攻撃を回避できるだけの回避力がスバルには無い。
 さてこのままじゃこれで終わっちゃうよ?どうするの二人とも!
 軋む体に鞭を撃って更なる弾幕を展開する。
「たいしたもんだったよ。あの二人は」
 ヴィータが奮闘した二人を賞賛した。
「あのなのはにここまで本気を出させるなんて……惜しむらくは、ティアナが身を挺して守った最後のチャンスが生かせればよかったんだが……」
 しかしスバルの回避力ではなのはの攻撃をかわせない。
 勝利を一縷の望みにかけたのは最後まで諦めない素晴らしい判断だったが、最後は力量の差が勝負の決め手となった。
「でもそこは追々鍛えていけばいい。来年の今頃は、もっと面白いことになる」
「ヴィータさん……」
 シャーリーが声をかける。
「これ……みてください」
「?」
 提示されたのは三人のバイタル画面。
 どれもこれも余力が殆どない有様だが、その違和感にすぐに気がついた。
「スバルのバイタルが……減ってない!?」

「はぁあああああああああぁ!!!」
「-------------っ!?」
 濛々と立ち上る黒煙を吹き散らし、陣風のごとき疾走で一気に飛び出してきた青い弾丸。
 スバルが猛スピードでなのはに詰め寄る。
 しかしすでに弾幕は用意されている。それを接近するスバルに打ち込む。
 だが、
 その雨霰の弾幕を、スバルは惚れ惚れするほどに軽快な、そして無駄の無い動きで回避する。
 回避しきれないものは拳や蹴りで粉砕し、一直線に距離を潰しにかかってくる。
 たまらずなのはが空に後退した。その間にも間隙無く放たれる光弾。しかし
「なんでだよ!?なんであんなふうに交わせるんだ!?」
 別人のようなスバルの変わりように困惑するヴィータ。
 それはなのはも同じだ。表情から完全に余裕の色が消え去っている。
 リミッターをかけられた状態で全開状態の戦いを再現しようとしているなのはの消耗速度は半端ではない。
 余力はもう尽きている。
 その段階に来てこの動き。
 隠していた?そんなはずは無い。スバルはその手の出し惜しみをするタイプではない。
 ………スバルは?
「まさかっ!?」
 そうそのまさかですよ、なのはさん。
 瓦礫の山でティアナはほくそ笑む。
 遅れてヴィータも気づいた。
 スバルの眼に宿った橙の光。
「視ているのは、ティアナか!」
 そう。それがティアナが残した最後の隠し札。
 幻術とは即ち光の屈折、および認識の齟齬。
 その二つを組み合わせ、ティアナは自分の眼のスペックの魔術的なコンタクトレンズをスバルの眼球に取り付けたのだ。
 理屈の上では出来ないことではない。しかしやろうと思ってできることでもない。
 自分の眼のスペックと他人の眼のスペックをうまく食い合わせないと、脳の認識は誤魔化せない。瞬く間に幻術は解けてしまうだろう。
 でも、あの子が何ができて何ができないか、スバルに関してアタシ以上に知っている人間なんているもんかっ!
 スバルは次々に弾幕を突破、ついにすべてを掻い潜り、なのはとの間にはなんの障害も無くなった。
「マッハキャリバー!」
 すぐさま空にいるなのはをウイングロードで追撃。
「くっ!」
 なのはも力のすべてを出し切って迎撃するも、そのすべてが交わされる。
 どんな方向から来ても見える!どんな弾道でも読める!
 これが………
「ティアがいつも見ている風景っ!」
 そうよスバル!
 アタシの力が届かないなら、アンタの力で貫けばいい!
 アンタの眼で追えないのなら、アタシの眼を貸せばいい!
 目の前にいる人はまごう事無き最強の魔導師。
 アタシやアンタでは手も足も出ない生きた伝説。
 でも、あの人は一人だ。
 アタシたちは違う。

「は、はじめましてティアナさん!アタシ、スバル・ナカジマっていいます!」
「あのさナカジマ。私のことはランスターって呼んでくれない?馴合いって好きじゃないの」

 時間も、

「ちょっと!アンタはもっと力加減ってもんを覚えなさいよ!」
「あはは。ごめんなさ〜い」

 経験も、

「行くわよ。”スバル”」
「……………………うんっ!」

 友情も、

「なのはさんの隊に配属されるなんて、夢みたいだよ〜!」
「よかったじゃない。ずっと追い続けた人なんでしょう?私も、執務官の勉強をさせてくれるって言うし。なんか上手く行き過ぎてて怖いくらいね」
「なんかすんごくおーきな事件が起こる前触れとか」
「やめてよ、縁起でもない!」

 喜びも、

「ごめん……アタシ馬鹿だから……力技しか思いつかなくって」
「えーい!めそめそするな!とりあえず追試って形になったんだからいいわよ。それよりもほら、アンタも勉強しなさい!アンタだけ落ちたりしたら気まずいでしょう!?」

 悲しみも、

「私は!もう誰も亡くしたくないから!強くなりたいんです!」
「ティアぁぁぁあ----------!」

 痛みも、

「使えない部下は、用済みって事ですか……」
「強くなろうと努力する事の、何がいけないんですか!?」

 そして----------過ちすらも。

 私たちはずっと二人で積み上げてきた。
 私の力はアンタの力。
 アンタの力は、私たち二人の力だ。
 さあ、魅せてやろう-----------

「はぁぁぁああぁ-------------!」
 まっすぐの突撃と見せかけて、スバルはフェイントを一つ入れた。
 余力の無いなのははそれにかかり、手前にバリアを展開する。
 その表面をすべるようにローラーをスピンさせ、ついになのはの背後を取った!
「もらったっ!」
 起死回生、勝負をかけた逆転の一撃。
 二人の持てる力のすべてを賭けた一撃。
-------------だが、それは読まれていた。
 まるでうなじに目が付いているかのよう。
 なのはは物凄い反応速度で【フラッシュインパクト】を背後に振り払う。
 もう相手を見てなどいない。
 研ぎ澄まされ鍛え上げられた洞察力は、そこに敵がいることを告げていた!
 篭められた魔力は家一つを容易に吹き飛ばすほどの威力。
 スバルは攻撃のモーションに入っている。身動きは取れない。これ以上ない完璧なタイミングのカウンター。
 残りありったけの魔力をつぎ込んだ手加減ナシの勝負手。
 決した。なのはですらそう思った。
 だがその一撃はまるで霞を切るかのように、スバルをすり抜けた。
(-------幻術!?)
 掻き消える霞のさらに下、一撃必殺の力を湛えた青空色の魔力光。

「いけぇえええ-------!スバァァ----------ル!!」

------このべらぼうに強くて、底なしに優しい、世界で一番信頼できる私たちの隊長に、

-------------二人の一年間を、叩きつけよう!

「ディバイィン-------------バスタァァアアアぁああぁぁあぁ!!!!」


                 ※


「ふぁ……?」
 終業のチャイムの音で目を覚ます。
 ああ、いつの間にか本を読みながら寝てしまっていたのか。
 膝の上で開かれた文庫本をバックにしまう。
 広く白いロビーの人はまだ疎ら。待ち人が来るまでは少しばかりまだ時間がありそうだ。
 まるで身だしなみに気を配らない女だったが、最近はメールなどで化粧品やルージュの新色の話などが出るようになってきた。
 多分、以前のように着の身着のままというわけではないだろう。
 それも含めて、なかなか楽しみであったり少し不安であったり。
 手鏡を取り出して髪のセットを直した。柱に首を預けて寝ていたせいか、やや乱れている。
 なにぶんあいつときたら元がイイ。小憎たらしいほどにイイ。
 おしゃれをはじめると突然化けるタイプではなかろうか。
 しかしこう、そのへんで負けるのはプライドが許さなかった。
 よし臨戦態勢OK。いつでもきやがれってんだコンチクショウ。
 わらわらとロビーは家路に着く人でにぎわい始める。
 チャイムで目を覚ましたのはラッキーだった。こんな大勢に寝顔なんて見られたくない。
 ……とくに今回は多分相当愉快な寝顔だったに違いないから。
 懐かしい夢を見た。
 多忙な日々に、今はもう夢でしか回想しなくなったような出来事の夢。
 それでもその夢を見るたびに、どんなに辛くても私は笑えた。
「ごめん!まったかな?」
「……ぅ、負けたわ……」
 がっくりとうな垂れる。
 うむぅ、ある程度覚悟はしていたが、まさか髪を伸ばしていたとは、この卑怯者。それは反則だ。
「ふぇ?」
 小鳥のように首をかしげる仕草は何も変わっていない。
 それをみると何だかヘンなプライドのことはどうでもよくなってきた。
 そうだ。飲み屋に着いたらさっきの夢の話をしよう。
 きっと楽しい夜になる。きっと笑いあえる夜になる。
 そしてこれからも、あの色あせない夢を見るたびに私たちは笑うのだろう。

「なんでもない!じゃあ行きましょう。スバル」
「……うん!ティア!」

 あの時、ボロボロな体で撮った記念写真と同じ笑顔で、いつまでも。




Fin.



あとがき

最後までお付き合いくださりありがとう御座います。

自分がこの話を描こうと思ったのは
本編中に1クール近く使って描写された訓練シーンをいかす展開が無く
あげく最終戦はみんな単独戦闘というあまりにもビックリな展開に『ちょwまじすかw』
ってなったからですw

その点では非常に自己満足してますw書いてよかったw

自分はStSの詳しい設定とかを網羅してません。
資料集などもネットで見る程度です。
だから設定とかに詳しい人はこれはネーだろ!ってつっこみを入れられるかもw
あんまり気にしないで見てくれたら幸いですw


あと本編中では完全無敵ななのはさんに
『日本人』の致命的な弱点を盛り込んでみました。
個人的には完璧超人よりこういうぬぐいがたい弱点を持っているほうが好みなんですが
みなさんはどうでしょうかね。


よろしかったらweb拍手などで意見や感想をもらえると喜びます。

それではー。